ネチュン寺
ネチュン寺は、ネチュンという神の神託官(クテン)がいることで有名。チベット歴史の中で重要な役割を果たしてきた寺だ。ダライラマは、国の重大事を決める前に、必ずネチュンの神託官に相談したという。神託の媒体となる男もしくは女が狂ったように、叫び、踊り、やがて神がクテンを通して、お告げをするらしい。
ヘンリック ハラの `7 years in Tibet' には、新年の吉凶を予言する儀式の様子が書かれている。現実主義のドイツ人の彼は、儀式は形だけで、彼がなにを言うかはすでに幹部の高官僧によって決められているはずと思っていた。実際、クテンが何を言っているか、見物人には全くわからない。しかし、クテンの狂ったようなもがき苦しむ姿は、演技とはとうてい思えない迫力があったらしい。彼いわく、クテンの寿命は短いというが、あれほど狂ったように激しく動いては無理もないだろう。日本だったら、卑弥呼の時代だろうか。そんな儀式が、つい最近まで行われていたのだから、チベットは不思議な国だ。ネチュン寺は、中国侵略と文化革命の際に、ほとんど破壊された。かつては、数百にいた神託官だが、現在ではほんの数人しかいないという。寺には、体をちょん切られた鬼や、目玉や内臓がぶらさがった気味の悪い壁絵がある。
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